金を溶かす「王水」とは?化学式から危険性までわかりやすく解説【知っておきたい化学】

王水をやさしく解説

王水(おうすい)は、金や白金といった貴金属すら溶かす超強酸として知られています。その正体は、濃硝酸と濃塩酸を混合した酸であり、化学史や現代の研究でも重要な役割を果たしてきました。

本記事では、王水の成分や化学式、何を溶かすのか、危険性、そして歴史的エピソードまでをわかりやすく解説します。

(注意!)王水は一般人が扱えるものではなく、研究や工業分野など限られた場でのみ使用される危険物です。ここでは化学知識として理解してください。

王水とは?

王水は、濃硝酸と濃塩酸を混ぜ合わせて作られる混合酸です。その名は「金を溶かすことができる酸」であることに由来し、英語では「Aqua regia(アクア・レギア)」と呼ばれます。

  • 王水とは濃硝酸と濃塩酸を混ぜたもの
  • 金や白金など通常の酸では解けない金属を溶かす
  • 「金属の王」である金を溶かすことから命名
  • 英語名は Aqua regia(アクア・レギア)

金や白金の精製、貴金属リサイクル、試料を分解する分析化学などで利用されています。王水は強い酸化作用を併せ持つため、通常の酸では溶けない金属の処理や化学分析に欠かせない存在となっています。

王水の作り方は?

王水は、一般的には濃塩酸3に対し濃硝酸1の割合で混合して作られます。例えば濃塩酸300mLと濃硝酸100mLを合わせると、王水400mLが得られます※。はじめは色が薄めですが、徐々に橙黄色の溶液となります。

王水は混合した直後から分解が始まり、時間とともに作用が弱まるため保存には適しません。そのため必要な場で必要な量だけ調製するのが基本です。

また腐食性が非常に強いので保護手袋や保護メガネなどの保護具は必須です。さらに有毒ガスが発生するため、吸わないように排気設備の中で調整してください。

  • 混合比は濃塩酸3:濃硝酸1で混合
  • 強い腐食性あり、保護具が必須
  • 有毒ガスが発生するため排気設備が必要

※正確にはモル比で計算されるため、濃塩酸がやや多めに必要です。実際に調製する場合は、必ず専門書や論文を参照してください。

王水の作り方は、“1しょう3えん”と覚えていました。

王水の化学式と反応式

王水そのものは混合物であり、単一の化学式は存在しません。濃硝酸(HNO₃)と濃塩酸(HCl)を混ぜ合わせることで反応が起こり、塩素(Cl₂)や塩化ニトロシル(NOCl)といった反応性の高い物質が生成されます。これらが王水の強力な作用の源です。

王水に金(Au)を入れると、金が塩化金酸イオン(HAuCl₄)となって溶解します。

  • 化学反応式:HNO₃+3HCl → NOCl+Cl₂+2H₂O
  • 金が溶ける反応式:Au+HNO₃+4HCl → HAuCl₄+NO+2H₂O

詳しく解説すると、硝酸によって塩素と塩化ニトロキシルという酸化力の高いガスが生成されます。このガスと塩酸によって金が酸化され、さらに塩酸から生じた塩素イオンによって安定な錯イオン(HAuCl₄)を形成します。

(参考)JSTAGE

王水で溶けるもの/溶けないもの

王水は、通常の酸では溶けない金や白金を溶かすことができる点が大きな特徴です。一方で、すべての物質を溶かすわけではなく、溶けないものもあります。

溶けるもの溶けないもの
金、白金、その他多くの金属銀、タンタル、イリジウム、ガラスなど

銀の場合は王水に入れると表面に塩化銀の膜が形成され、それ以上反応が進まないため溶けません。タンタルやイリジウムといった金属は耐酸性が非常に高く、王水にも侵されません。またガラスはシリカを主成分とし、金属でないため溶けません。

王水の危険性と事故

王水は非常に強い腐食性と反応性を持ち、皮膚や粘膜に触れると深刻な損傷を与える危険があります。また混合直後から有毒なガス(塩素や塩化ニトロシルなど)が発生し、吸入すれば健康被害につながる可能性があります。

  • 皮膚や目を激しく損傷するおそれ
  • 揮発ガスによる有害性がある
  • 誤った取り扱いで流出や事故に至る危険がある

実際に大学や研究機関では、王水を誤って下水に流出させ環境に影響を与えた事故なども発生しています。王水は取り扱いを誤れば重大な事故に直結するため、専門的な安全管理のもとでのみ使用する必要があります。

王水の使い道

王水は、強力な酸化作用を持つため、通常の酸では不可能な処理に利用されています。特に金や白金といった貴金属に対しては欠かせない存在です。

  • 金や白金の精製に利用される
  • 都市鉱山からの貴金属リサイクルに活用される
  • 分析化学で試料を分解する前処理液として用いられる

精製では、金を王水に溶かしてから再び析出させることで高純度の金属が得られます。リサイクル分野では、廃電子機器(いわゆる都市鉱山)から金や白金を回収する際に王水が使われています。

また、分析化学では試料を完全に分解する「酸分解」の工程に利用され、微量の金属元素まで正確に測定するために役立っています。

このように王水は、貴金属産業から研究分野に至るまで幅広く利用される重要な化学薬品です。

王水の歴史

王水は、古くは錬金術の時代から知られていました。金をも溶かすことができる酸として、錬金術師たちに大きな関心を持たれ、やがて「王の金属を溶かす酸」という意味から「王水」と呼ばれるようになりました。

近代に入ると、化学の発展とともにその性質が体系的に研究されました。王水は化学史において特別な位置を占め、貴金属の扱いにおける重要な化学薬品として位置付けられています。

第二次世界大戦中には、コペンハーゲン大学の研究者ジョージ・ド・ヘヴェシーが、ナチスに押収されるのを防ぐためにノーベル賞メダルを王水に溶かして隠した逸話が残されています。このメダルは戦後に再精製され、持ち主に返還されました。

  • 錬金術の時代から知られていた
  • 金属の性質を探る中で発見されたとされる
  • 「王水」という名称は金を溶かす力に由来

王水は単なる強酸としてだけでなく、歴史や文化にも深く結びついてきた存在といえるでしょう。

王水のpH

王水は、pHが0よりも小さい程の強い酸性を示します。そのため通常のpH測定器では測定できない場合があり、測定には注意が必要です。なお、濃硝酸や濃塩酸もpH1~0と非以上に強い酸性を示します。

※pHについてはこちらの記事を参考にしてください

よくある質問(FAQ)

Q1. 王水は家庭で作れますか?
A. 作れません。王水は濃硝酸と濃塩酸を混合して得られますが、有毒ガスを発生させる非常に危険な化学物質であり、専門の設備と知識が必要です。

Q2. 王水の英語名は何ですか?
A. 英語では aqua regia(アクア・レギア) と呼ばれます。直訳すると「王の水」という意味です。

Q3. 王水で金は溶けますか?
A. 溶けます。硝酸が金を酸化し、塩酸に含まれる塩素イオンが結合して塩化金酸(HAuCl₄)となり、溶液中に安定します。

Q4. 王水を飲むとどうなりますか?
A. 王水は強酸性かつ有毒で、人体にきわめて危険です。少量でも生命に関わるため、決して触れたり飲んだりしてはいけません。

まとめ

  • 王水とは? 濃硝酸と濃塩酸を混ぜた混合酸で、金属の王を溶かす酸として命名
  • 作り方 濃塩酸3:濃硝酸1で調製、強い腐食性と有毒ガスに注意
  • 化学式と反応式 単一の式はなく、混合でCl₂やNOClが発生し金を溶かす
  • 溶ける/溶けないもの 金や白金は溶けるが、銀・ガラス・イリジウムは溶けない
  • 危険性と事故例 強酸性と揮発性ガスにより重大事故の危険
  • 使い道 金属精製、都市鉱山のリサイクル、分析化学での試料分解に利用
  • 歴史 錬金術に由来し、ラテン語でaqua regia
  • pH 0より小さい超強酸性。濃硝酸や濃塩酸も同様に強酸性を示す

王水は金や白金も溶かす強力な酸ですが、溶けないものもあります。錬金術の時代から存在し、歴史や文化とも結びついた特別な化学物質です。正しく理解し、その危険性を踏まえて化学知識として活用してください。

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『学校では教えてくれない ヤバい科学図鑑』

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『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』

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柊木 遥太

地方自治体の元職員。廃棄物処理法や水質汚濁防止法などの環境法令事務を担当。公害防止管理者(水質第一種)など国家資格保有。

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