
「うちの工場の水質汚濁防止法の担当者になったけど、「特定施設」ってなんだっけか?
正直うろ覚えで、実はいまいちよくわかっていないんだよね。。」

今回はこんな悩みを解決します。
・企業で、新しく水質汚濁防止法の担当者になった方
・工場に特定施設はあるけど、どうすればいいかよくわからない方
・新しく特定事業場の経営者・工場長になる方
・特定施設の概要をわかりやすく知りたい方
・公害防止管理者を受検する予定の方 など
ちなみに筆者の私ですが、こんなキャリアがあります。
・公害防止管理者の有資格者
・水質汚濁防止法の届出に関する実務経験者
さらに本記事は、信頼性を保つため、環境省や自治体の情報を参考にしています。
この記事を読み終わった後は、きっと、届出担当者として、水質汚濁防止法の特定施設の概要がわかり、どうすればいいのか、具体的にわかるようになっているはずです。
- 特定施設ってなんだっけ?
- 環境担当者が確認すべきポイント
※ はじめて水質汚濁防止法の届出担当者になり、全体的に何をやればいいか知りたい方はこの記事をご覧ください。
特定施設ってなんだっけ?
特定施設の定義
まずは、法律の第2条で定義されていますので、ご確認ください。
水質汚濁防止法第2条
2 この法律において「特定施設」とは、次の各号のいずれかの要件を備える汚水又は廃液を排出する施設で政令で定めるものをいう。
一 カドミウムその他の人の健康に係る被害を生ずるおそれがある物質として政令で定める物質(以下「有害物質」という。)を含むこと。
e-Gov法令検索 水質汚濁防止法 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=345AC0000000138
二 化学的酸素要求量その他の水の汚染状態(熱によるものを含み、前号に規定する物質によるものを除く。)を示す項目として政令で定める項目に関し、生活環境に係る被害を生ずるおそれがある程度のものであること。
※ 「政令で定めるもの」は下記より【水質汚濁防止法施行令 別表第1】をご参照ください。
(一番下の方に別表第1があります)
条文に記載のとおり、特定施設とは、汚水や廃液を排出し得る施設のことで、政令の別表第1の一覧表に記載された施設のことです。
✔「汚水又は廃液」って?
具体的には、条文の1,2号にあるとおり、有害物質や生活環境に係る被害を生ずる物質を含む液体のことです。特定施設かどうか判断するにあたり、これらの物質の濃度は関係ありません。
また、泥状であっても、ドライクリーニング機のように、汚水を蒸発させ、汚泥を回収処分(産廃として業者処分)する施設は特定施設に該当すると判断するのが一般的です(過去の環境省の見解より)。
つまり、汚水や廃液に該当するかの判断に、含水率の規定はなく、ドロドロした泥状の場合であっても、状況によっては汚水や廃液とみなすケースもあります。
※ 汚泥が廃液に該当するかは、ケースバイケースであり、自治体の判断によります。
✔「排出する」って?
ここでいう「排出」とは、「排出水」とは異なり、公共用水域に排出するもののみに限られていません。施設自体から(汚水や廃液が)出るといった意味です。
またクローズドタイプのように系外に一切排出されなければ、特定施設に該当しないケースもありますが、定期的に系外に排出するということであれば「排出する」とみなし、特定施設に該当する可能性があります(つまり、排出「頻度」の規定はなく、排出「するかしない」か)。
※ こちらも法に明確な規定がないため、ケースバイケースであり、自治体の判断によります。
✔「施設」って?
そもそも「施設」とはなんぞや?という話ですが、これも法で明確に規定されているわけではありませんが、過去に環境省から疑義照会が示されています。
・工場・事業場に一定期間設置されるもの
・常時移動させながら使用するものは非該当
という考えが一般的です。
しかし、例え施設に該当しないようなバケツやドラム缶などであっても、一連の工程の中で使用するために、一定期間、一定の場所に設けられる場合は、「施設」に該当しますので要注意です。
✔「政令」って何?
「政令」とは「施行令」とも呼び、内閣が定めたもの。「法律」の規定をより細かく定めたものです。
【政令】 内閣が定めたもの (例 水質汚濁防止法施行令)
【省令】 各省大臣が定めたもの(例 水質汚濁防止法施行規則)
当然、法律⇒政令⇒省令に行くにつれて、内容が細かくなっていきます。罰則は、法律のみに規定。
他にも、【告示】【通達】【通知】などあり、より細かいことが規定されています。
通知などは、かなりの数がありますが、自社に関係する通知は把握しておく必要があるでしょう。
「知らなかった」じゃ済まされないのが、法律のこわいところ。
とはいえ、すべての通知を理解するのは、至難の業なので、行政機関の担当者と連携を図りましょう。
該当性の判断
以上のように、例外的な考え方があるにせよ、通常の場合では、特定施設に該当するかどうかの判断は、シンプルにこれだけです。
「政令に定めてあるか?」
定めてあれば「該当」、なければ「該当しない」。
政令をみると、特定施設の多くが、「業種」と「施設の種類」が指定されています。
つまり、自社工場(事業場)の業種を確認した上で、どんな施設を設置しているか(設置する予定か)確認してください。
ちなみに業種は、会社全体ではなく、工場単位で見た方がいいです。 複数の業種が該当するケースもあります。なお、原則的には、「日本標準産業分類」の業種で判断します。
※さらに詳しく知りたい方は、国の通知をご覧ください。
✔判断が曖昧な場合はどうすればいい?
基本的には、汚水や廃液が発生しうる施設は、大概、特定施設に該当すると思います。
くれぐれも曖昧な場合は、自己判断はしないよう注意してください。
なぜなら、特定施設を設置する場合、届出義務があります。
届出漏れは「違法」となり「罰則」があるので、施設メーカーなどと確認し、曖昧な場合は、必ず行政機関に確認をとってください。
なお、行政機関に相談する場合は、担当者名や相談日時、該当有無の判断理由を記録しておくことをおススメします。
何年か経過して「言った言わない」というのは、お互い面倒ですからね。行政機関担当者は、2、3年で入れ替わることが多く、担当者の個人的な見解で「届出不要」と認識していたものが、担当者が代わり、後任の方が別の見解で「届出必要」となれば、法的に届出義務のある企業側の責任になり兼ねません。
自治体によって見解が異なる?【TAROのつぶやき】
水質汚濁防止法の事務は各都道府県知事または政令市長に権限があります。また「法律の規定」と「現場の状況」とは必ずギャップが存在するもの。つまり、法律などで規定されていないようなケースが現実には多々あり、「どう判断するか?」「どう解釈するか?」は各自治体によって見解が分かれることが起こってしまうのです。さらに言えば、同じ自治体でも担当する職員によっても見解が変わることは十分にあり得るのです(いいか悪いかは別にして)。もちろん自治体職員も、他事例と比較したり、国や他自治体に照会しながら、判断していると思うので、独断と偏見で決められることはあり得ませんが。
「えっ!?これも特定施設?」具体例の紹介
特定施設は、全部で1~74番までありますが、一企業にとっては、このうち数施設が該当するのが通常だと思います。いくつか具体例をご紹介します。
(1)旅館業
イ ちゆう房施設
ロ 洗濯施設
ハ 入浴施設
「令和元年度水質汚濁防止法等の施行状況(令和3年1月)」によると、この業種の特定事業場の数が、全国で1番多いようです。
ホテルや旅館、宿泊できるゴルフ場なども該当してきますが、厨房、洗濯、入浴施設と、いずれも汚れた水が発生し得るので規制対象となります。
(2) 自動式車両洗浄施設
これが全国2位の施設です。特に業種が指定されていませんので、「全業種」が対象です。
よくガソリンスタンドや自動車整備工場で見かける「洗車施設」です。
(3) 酸又はアルカリによる表面処理施設
これは全国9位の施設ですが、こちらも特に業種が指定されておらず、表面処理をする施設を持つ事業者が対象になります。なお、有害物質を使用し「有害物質使用特定施設」に該当するケースもあると思いますので、要注意です。
(4) 科学技術の用に供する施設
イ 洗浄施設
ロ 焼入れ施設
これは全国10位の施設ですが、わりと「これが特定施設なの!?」と思うような施設ではないでしょうか?
ここでいう「イ 洗浄施設」の例としては、研究や検査などで器具を洗浄したりするのに使う「流し台」のことです。
記載にある環境省令で定めるものとは以下のとおりです。
・国又は地方公共団体の試験研究機関(人文科学のみに係るものを除く。)
・大学及びその附属試験研究機関(人文科学のみに係るものを除く。)
・学術研究(人文科学のみに係るものを除く。)又は製品の製造若しくは技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究を行う研究所(前2号に該当するものを除く。)
・農業、水産又は工業に関する学科を含む専門教育を行う高等学校高等専門学校、専修学校、各種学校、職員訓練施設又は<職業訓練施設
・保健所
・検疫所
・動物検疫所
・植物検疫所
・家畜保健衝生所
・検査業に属する事業場
・商品検査業に属する事業場
・臨床検査業に属する事業場
・犯罪鑑識施設
つまり、官公庁や民間であるかを問わず、該当する場合はすべてです。もちろん工業高校や農業高校の実験室にある「流し台」も対象なので要注意です。
他にもこんな特定施設が・・・
水質汚濁防止法の特定施設に該当しない場合でも、各自治体が独自に定める「都道府県条例」により「特定施設」を定めていることがあります(これを通称「横出し」規制といいます)。
ただし、条例に定める特定施設があっても、水質汚濁防止法の届出をしていれば、免除されるケースもありますので、必ず自社工場のある自治体の条例を確認してください。
特定施設の概要はわかりましたか?次におさえておくポイントを解説します。
環境担当者が確認すべきポイント
まず自社の届出を確認してください
おそらくこの記事をご覧のあたなは、自分の会社の工場、事業場に、何かしらの特定施設があると思いますので、過去に行政に提出した届出を見てください。

見つかりましたか?
過去に特定施設を設置した際や、何か変更があった場合、行政機関に届出義務があるので、行政機関の押印がある控えの「特定施設設置届出書」があるはずです。
そしたら、一番最初のページのここ(黄色い部分)を確認してください。

「特定施設の種類」が何か分かったと思います。特定施設を複数設置している場合など、他にも届出をしていないか確認し、自社の特定施設は何か必ず「すべて」把握してください。
✔「あれっ!?届出がない!!」もしみつからなかったら・・
その時は、仕方がないので、所管する自治体(役所)にご相談ください。
ただし、自社の届出であっても、閲覧するには(場合によっては届出の有無を聞きたいだけでも)「情報公開請求」の手続きが必要になることもあります。
ちなみに、所管する自治体は、工場、事業場がある場所によって異なります。
基本的には、「都道府県」(通常はその出先機関)になりますが、政令指定都市などの大きな都市の場合は「市」になります。
不明な場合は、とりあえず、工場、事業場のある都道府県庁または市町村役場にご相談ください。
現状と届出内容が変わっていないか?
届出を確認したら、現状と届出内容が変わっていないかチェックしてください。
特定施設に限定すれば、以下のとおりです。
1.種類、設置数
2.構造(能力、設置場所など)
3.使用の方法(使用時間、使用する原料、汚水の状態など)
4.有害物質の使用状況
上記は、特定施設に限定したものです。まずは現場に届出持っていき、届出に添付した図面などと変更がないか確認してください。
特定施設以外にも、「届出者」(会社の代表)、「汚水等の処理の方法」、「排出水の汚染状態及び量」など、他にも届出内容と現状が変わっていないか、同様にチェックし、届出漏れがないか確認してくださ。
なお、そもそも届出対象外になっているケースもあります。例えば、有害物質を使用しておらず、「特定事業場」(特定施設のある工場がある敷地全体)から出る排水(雨水など含む)の放流先が、河川(通常は道路側溝経由)などの「公共用水域」から「公共下水道」に切り替わっていたら、水質汚濁防止法の対象外になりますので、届出不要です。
✔「まずい!!届出していない!」
万が一、届出の記載事項と現状が変わっているのにも関わらず、届出期間を過ぎていた場合、法的にはアウトです。至急、自治体に連絡し、速やかに届出してください。
ちなみに、未届は違法で罰則規定がありますが、対応は自治体によってバラツキがあるようです。全国的に未届による違反件数は、0件なので(令和元年度施行状況調査より)、行政から、顛末書の提出を求められたり、口頭指導を受けたりすることはあるかもしれませんが、速やかに届出すれば罰則までは適用されないのでしょう。
ただし、最悪なのは、基準を満たさない特定施設などをすでに設置してしまった場合です。その場合は、改善されるまで施設を使用できなくなるおそれがあります。
今後、届出内容を変更する予定はあるか?
新たに特定施設を設置する場合や、特定施設の構造や使用の方法を変更する場合は、60日前までに届出しなければなりません。
具体的には、「設置しようとするとき」「変更しようとするとき」であり、通常は、機械・設備的なものであれば「据付工事着手時」、建築・建設的なものであれば「基礎工事着手時」になります。
施設の設置工事などを予定している場合は、必ず事前に届出のスケジュールも確認しておいてください。届出のせいで、工事が遅れたら、事業に支障をきたしますしね。
※ 届出書については以下の記事をご覧ください。
・特定施設とは、汚水や廃液を排出する施設であり、政令に規定してあるもの
・特定施設に該当するかは、政令に規定してあるかどうかで判断
・届出担当者は、まずは自社の届出を確認し、現状と変わっていないか確認する
・今後、特定施設を新たに設置又は変更する場合は、届出スケジュールを確認する
(参考)

より理解を深めたい方へ、おススメの本をまとめました。
※ 水濁法や公害防止管理者への理解を深めるTAROさんのおススメ本

環境法全般について、理解を深めたい方はこちらの本がおすすめです。

最後までご覧いただきありがとうございました。
~執筆者 TAROさんについて~
某国立大学院の工学研究科で、プラスチックのリサイクルについて研究。大学院修了後、大手製造業に就職し、液晶テレビや携帯電話などの電子部品の素材を開発する業務に従事。特許取得。その後、転職し、地方公務員の化学技術職として、水質汚濁防止法や廃棄物処理法などの環境分野で10年以上の実務を経験。公害防止管理者(水質第1種)、廃棄物処理施設技術管理者。2022年4月からライターとして独立。
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