出光とトヨタが全固体電池の量産化に向け協業を開始(2023.10.12ニュース)

近年、カーボンニュートラルの実現に向け、電気自動車がますます広がりを見せていますが、車に搭載する「バッテリー」の開発の話題も活発です。

先日、こんなニュースを見かけました。

2023年10月12日 出光とトヨタ、バッテリーEV用全固体電池の量産実現に向けた協業を開始

出光興産株式会社(以下、出光)とトヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)は、バッテリーEV(以下、BEV)用の有力な次世代電池である全固体電池の量産化に向けて、固体電解質の量産技術開発や生産性向上、サプライチェーン構築に両社で取り組むことを、本日意思決定し、合意しました。全固体電池の材料開発等で世界をリード*する両社が連携することで、2027~28年の全固体電池実用化(2023年6月Toyota Technical Workshopで公表済み)をより確実なものとし、その後の本格量産を目指します。

トヨタニュースリリースより

共同記者会見の様子は、ユーチューブにアップされています。

以前から全固体電池の開発に力を入れてきたトヨタ。今回のニュースでは、全固体電池の量産化に向けて出光興産と提携するとの内容でした。2027年から2028年には実用化を目指すとのことです。

私個人として、「日本の電池産業にがんばってほしい!」という気持ちがずっとあるので、今回のニュースについて気になる部分を調べてみました。

全固体電池とは?

「全固体電池」─最近ではニュースでもよく見かけるようになりました。車載用の電池は、高性能なリチウムイオン電池が主流です。

リチウムイオン電池は、軽量であり、電池性能も優れたもの。スマホなどにも使われており、二次電池(充電できる電池)の代表格です。

現状は液系が主流、温度変化の対応や発火リスクに課題

従来のリチウムイオン電池の厄介なところは、電解質とよばれる電池の一部に、有機溶媒を使用するところです。この有機溶媒は可燃性がある液体です。以前、粗悪なリチウムイオン電池から、出荷したり爆発するなんていうニュースがあったと思いますが、この有機溶媒が原因です。リチウムイオン電池は安全性にやや課題があるのです。

また液系のものだと、どうしても温度変化に弱いという課題があります。冬の寒い時期だと、携帯の電池の持ちが悪いと思いますが、低温になると使用できなくなります。逆に高温だと、安全性への懸念があります。

全固体電池は安定性が高く、温度変化に強い

この電解質を、液体ではなく固体にしたのが全固体電池です。これによって、安全性が改善されます。

さらに、電解質が固体になると、安定性が高くなり、温度変化の問題が生じにくくなります。通常、電気自動車には、電池を冷却する装置が付けれますが、全固体電池ではその必要がなくなり、その分より多くの電池を取り付けられます。

また急速充電をする場合、従来は高温で劣化が進みますが、全固体電池は、高温でも劣化が起きにくく、急速充電にも対応可能です。

全固体電池の特徴
・発火リスクが低く、安全性が高い
・温度変化に強い
・急速充電に対応

課題は、イオン伝導率の高い材料

では、なぜ現状では液系のリチウムイオン電池が主流なのでしょうか?その理由の一つは、リチウムイオンの「動きやすさ」が液系の方が優れているためです。

そもそも電池は、金属イオンが、正極と負極の間にある電解質を行き来することで、充電や放電ができます。液体に比べて固体中の方が、イオンが動きにくくなります。なので、固体でありながら、イオンの伝導率が高い材料が求められます。

他にも、電解質が液体であれば、形状が多少変化しても、隙間などはできづらいのですが、固体は違います。固体は、隙間ができやすく、接触が悪くなりやすいという課題があります。そのため、材料同士の接触不良や亀裂が生じたりする恐れがあるのです。

※より詳細を知りたい方は、産総研(国立研究開発法人産業技術総合研究所)のページをご覧ください。

トヨタは硫化物系固体電解質

一般的に、全固体電池には、硫化物系と酸化物系の2種類があります。トヨタは硫化物系です。

硫化物系は、イオン伝導度が高いのですが、硫黄を使うので、有毒な硫化水素が発生するリスクが残り、また可燃性も高めです。

一方、酸化物系は、イオン伝導度は低いのですが、可燃性は低く、安全性が高いといった特徴があります。

それぞれ一長一短ありますが、一般的には、自動車等の大容量向けには硫化物系が、小型のデバイス等には酸化物系が想定されています。

なぜ、出光とトヨタが組んだのか?

ニュースによると、出光は、全固体電池の材料である固体電解質の製造・量産の技術力が強みであるからです。

出光は、トヨタより早い、2001年から全固体電池の要素技術の研究開発に取組んできたようです。特に、石油精製の過程で得られる副産物を活用して、硫化リチウムという固体電解質の中間材料の製造技術に強みがあるとのこと。

お互い業種は違えど、全固体電池のスペシャリストなんですね。

※こちらは出光興産側のニュースリリースです。

出光とトヨタ、バッテリーEV用全固体電池の量産実現に向けた協業を開始

「量産実現の協業を開始」って?具体的には?

具体的にはどのように進めていくのでしょうか?両社では、数十名規模のタスクフォースを立ち上げ、3つフェーズに分けて進めていくようです。

➀硫化物固体電解質の開発と量産化に向けた量産実証(パイロット)装置の準備

まずは、双方の技術領域において、品質、コスト、納期の観点から、硫化物固体電解質を作り込むとのことです。

②量産実証装置を用いた量産化

出光は、製造技術の強みを活かし、パイロット装置の制作、着工、立ち上げにより、量産化を進めていきます。

トヨタは、開発した硫化物固体電解質を用いた全固体電池と、それを搭載した電気自動車の開発を推進。2027年から2028年の市場導入を確実にするとのことです

③将来の本格量産の検討

上記の実績を踏まえ、将来の本格量産と事業化に向けた検討を両社で行っていきます。

まとめ

日本を代表する2つの企業が協力して進める全固体電池の量産化。なんだかワクワクしますね。

今後の展望に大いに期待です。